有料チケット制のライブ配信を行う際、DRM(デジタル著作権管理)は、コンテンツの著作権を守るために欠かせない技術です。しかし、初めてDRMをかけてライブ配信をする場合、DRMなしのライブ配信と比べて気を付けなければならないポイントがいくつかあります。「配信当日に視聴者が再生できない」などといったトラブルをなるべく起こさないためにも、DRMライブ配信での注意点をよく理解し、しっかりと準備しておく必要があります。本記事では、DRMライブ配信が初めてのサービス運営者に向けて、DRMライブ配信がなぜ難易度が高いのか、失敗しないために事前に押さえておくべきポイントについて解説していきます。
Contents
DRMライブ配信とは?通常の配信との違い
まずは、DRMの基本的なところを見ていき、つぎに通常のライブ配信との違いを理解しておきましょう。
DRMとは
DRMを簡単に説明しますと、「コンテンツを不正コピーから守るための技術」となりますが、その他にも、視聴できるデバイスを制限したり、オフライン再生を許可・不許可したりなど、ユーザーがコンテンツをどのように視聴できるかを「管理」できる技術でもあります。詳しくは、こちらの記事を参照いただくとして、以下に主要なDRMと対応デバイスの一覧を掲載しておきます。
| DRM | デバイス |
|---|---|
| Google Widevine | Google Chrome、Android、Chromecastなど |
| Apple FairPlay Streaming | Safari (Mac/iPhone/iPad)、AppleTVなど |
| Microsoft PlayReady | Microsoft Edge (Windows)、スマートTVなど |
デバイスごとに対応しているDRMは様々ですが、簡単な見分け方としては、GoogleやAppleなど各社が提供しているプラットフォームごとにDRMが紐づいているという方法が挙げられます。1
DRMなしのライブ配信について
DRMをかけていない通常のライブ配信のパターンとして、以下2つのパターンがありえます。
- そのまま配信(暗号化せずに生の映像を配信)
- 暗号化配信(HLS+AES128)
どちらも手軽にライブ配信する方法とはなりますが、特に後者の「暗号化配信」が手軽なセキュリティ対策として、広く採用される配信方法となります。ただ残念ながら、配信を暗号化していたとしても、不正コピーの危険性が高い状態ではあります。
暗号化配信については、「暗号化されているから大丈夫」・「暗号配信とDRMは同じ」と誤解されている方も多くいらっしゃいますが、暗号化配信は簡単に不正コピーができてしまう上、先述した「管理」という面においてもDRMとは大きく異なります。暗号化配信とDRMの違いについて詳しくは、こちらの記事を参照いただくとして、ここでは簡単に両者の違いについて説明しておきます。
暗号化配信とDRMの違い
| No. | 暗号化配信(HLS+AES128) | DRM |
|---|---|---|
| ①セキュリティ | 弱い | 強い |
| ②暗号鍵のサーバー(CDN)側でのキャッシュ (DRMの場合、暗号鍵ではなくライセンスと呼称) | 可能 | 不可 |
| ③デバイスごとの対応 | 不要 | 必要 |
| ④配信方式 | HLS | HLS / DASH |
| ⑤デバイスのセキュリティアップデート | 対象外 | 場合によっては必要 |
| ⑥対応期間 | 短い | 短い~長い |
①セキュリティ
暗号化配信は、暗号鍵が露出しておりDRMと比べてセキュリティは弱いです。一方、DRMは暗号鍵をそのまま取得するのではなく、暗号鍵を さらに暗号化し保護しています。保護された暗号鍵の他に、再生時間制御などの情報を含めたものを一般的に「ライセンス」と呼称します。
②暗号鍵のサーバー(CDN)側でのキャッシュ
暗号化配信における暗号鍵はキャッシュ可能ですのでサーバーの負荷を下げるという観点ではメリットはあります。ただ、こちらは裏を返せば、暗号鍵を他人と勝手に共有できる状態となり、セキュリティとしては弱いです。
一方で、DRMは、視聴者ごと・環境ごと(デバイスやブラウザなど)にライセンスを発行しますので、例えライセンスをサーバー側でキャッシュしたとしても、他のユーザーやデバイスでライセンスを使いまわすということはできません。ただし、その分、視聴者数分のライセンスを発行することになりますので負荷は、暗号化配信と比べて高くなります。
③デバイスごとの対応
暗号化配信は大抵のデバイスで再生できますが、DRMの場合は先述の表にもありますようにデバイスによって、どのDRMを使うかは変わります。そのため、暗号化配信と比較した場合、DRMに対応する工数は増えます。ブラウザへの配信のみの場合は、HTML5プレイヤーが簡易的に実装できるようにしているため、そこまで工数はかかりませんが、スマートフォンのネイティブアプリを開発する場合は、もう少し工数はかかります。
④配信方式
暗号化配信の場合、配信方式はHLSのみの対応となりますが、DRMの場合、対応方法はいくつかありますが、代表的な方法を以下に挙げます。
HLS / MPEG-DASHで2種類の暗号化コンテンツを配信
古くからある配信方式となり、最も多くのデバイスに対応している方式となります。Apple FairPlay StreamingはHLS、Google WidevineとMicrosoft PlayReadyはMPEG-DASH、というように2種類の配信方式で配信します。これらが分かれている主な理由としては、それぞれのDRMがサポートしている暗号化方式(CTR・CBC)が異なるためです。そのため、配信するコンテンツ量が暗号化配信と比べて増えることとなります。近年では、これらを一つに統合しようということで、次に説明するCMAFと呼ばれる配信方式も登場しました。
CMAFで一本化された暗号化コンテンツを配信
前述の背景から、3つのDRMの暗号化方式を共通化(CBC)し、配信コンテンツを一本化しようということでCMAFが登場しました。Apple製品は元々、CBCに対応しているため特に問題はありませんが、AndroidやWindowsの製品は新規のデバイスについてはCBCに対応してきているという状態のため、まだ市場には未対応のデバイスもあるため、幅広いデバイスに対して配信を考えている場合はCMAFではないほうがよいでしょう。
⑤デバイスのセキュリティアップデート
DRMは、クライアントのセキュリティ状態についてもチェックしており、あまりにもアップデートされていない古い端末ですと、そのクライアントに対してはライセンスを発行しないようにすることでセキュリティを担保しています。AppleやWindowsについては各社が提供しているエコシステムで完結しているため、そこまでDRM関係のアップデート頻度は高くはないですが、Googleについては、特にChromeブラウザがAppleのMacbookやMicrosoft Windowsなどにも提供されている関係でアップデートが頻繁にあります。Chromeブラウザのアップデートがあれば、必ず更新する必要がある、というわけではないですが、数か月アップデートしていないと、ある日、そのデバイスで再生できないということはあり得ますので注意が必要です。また、Androidについても、様々なメーカーが製造しているため、稀に一部の端末に重大なセキュリティの問題が発覚し、そのデバイスについてライセンス発行を拒否するということもあり得ます。
⑥対応期間
暗号化配信はシンプルであるため、開発も再生確認などのテストについても そこまで工数は多くなく比較的短い期間で対応が可能です。DRMについては、異なる技術を扱うため暗号化配信と比べると工数はかかりますが、複雑なことをやらなければ、短い期間での対応が可能です。特にブラウザのみの配信の場合は、1~2週間ほどで対応することも可能です。そのため、DRMについては どこまでやるか次第で、開発期間が短かったり長くなったりします。
以上、暗号化配信とDRMの違いについて簡単に見ていきました。この違いを踏まえたうえで、次にライブ配信特有の対策について説明していきます。
ライブ配信で特有の対策
対策①:チケット購入前の事前再生確認ページの設置
ライブ配信で避けたい問題として、チケットを買ったのに当日配信が見られなかった、というものです。特にDRMについては、前述の「⑤デバイスのセキュリティアップデート」でも説明したように、デバイスが古かったりなどで再生ができない可能性もあります。
そのため、トラブルを避けるためにもチケット購入前に、そのデバイスでDRMつき動画が再生できるかどうかを確認させるための「事前再生確認ページ」を用意しておくのは一つの有効な対策となります。ここでのポイントとしては、事前再生確認ページはライブ配信のストリームではなくとも良く、数十秒ほどのサンプル動画にDRMをかけておくでも良い点です。ライブ配信であってもVODであっても、DRMの仕組みなどが大きく変わるわけではないので、こういった形でも大丈夫です。
注意点
事前再生確認ページは有効な対策ではありますが、一点意識しておかなければならないことがあります。それはユーザーがDRMの知識は持ち合わせていないという点です。
どういうことかと言いますと、よくあるパターンとして、チケットはスマホで購入して、ライブ配信は自宅のスマートTVで見るかもしれないというものです。ユーザーにとっては、スマホであろうと何であろうと、とりあえず、再生確認ができればOKで、その後、どのデバイスで視聴しようと関係ない、と考える可能性があります。
そのため、事前再生確認ページでは、チケットを購入したデバイスで視聴するように促したり、視聴を予定しているデバイスで再生確認させるようにするなどの工夫が必要となります。
対策②:デバイスのアップデートを促す
「⑤デバイスのセキュリティアップデート」でも述べましたように、特にChromeブラウザ(Google Widevine)はアップデートの頻度は高いため、ライブ配信が始まる前に、最新化するように促すようにしたほうが良いです。
注意点
基本的にデバイスについては最新の状態を保つのが良いですが、ごく稀にアップデートによって再生できない可能性もあります。例えば、iOS 15にアップデートした際にSafariブラウザでDRMコンテンツが再生できないという問題が過去に一度発生したことがあります2。稀なこととは言え、万全を期す場合は運用者の方で、アップデートを適用して問題ないかを確認しておくのが良いでしょう。
対策③:本配信前から配信ページをあけるようにする
ライブ配信の本番で一番心配となるのは、急なアクセス増によるサービス品質の低下やダウンです。そのため、ユーザーのアクセスを分散させてアクセス集中を防ぐための一つの対策として、本配信の1時間程前から配信ページをあけておく方法があります。こちらはDRMライブ配信に限ったものではないため、以前からライブ配信を運営されている方なら実施されていることかと思いますが、負荷を分散させるためには必須といえる対策になります。
注意点
特に注意点はございませんが、配信ページを事前にあけておくことを どのようにユーザーに通知するかというのは工夫が必要かもしれません。また、事前にあけておく場合に、どういった映像を流しておくのかについても決めておかなければなりません。
さいごに
以上、初めてのDRMライブ配信で失敗しないためのTipsをまとめました。DRMライブ配信はトラブルを「起きる前に防ぐ」のが鉄則となりますので、実施される場合は十分な余裕を持って準備しておくことが必要です。
特にライブ配信を普段DRMなしで運営していた場合に、ある日コンテンツの権利者から急にDRMを入れてほしいと言われる可能性もあります。そういった場合、十分な準備期間を設けられない可能性もあるため、早めに行動されるのが良いでしょう。
DRM配信は一度安定した運用ができれば、コンテンツの価値を守りながら高品質な有料配信を実現できる強力な仕組みです。初回配信を成功させるためにも、本記事を活用して万全の準備を整えてください。
また、弊社サービスは、お客様のDRMライブ配信を成功させてきた実績が多くございますので、関心がある場合は是非とも お問い合わせください。
- 正確にはMicrosoft EdgeはChromiumベースのブラウザであるので、Microsoft PlayReadyとGoogle Widevineに対応しています。また、iPadのChromeブラウザは、Apple FairPlay Streamingで動作するというように、一概に この見分け方ができるわけはありません。 ↩︎
- iOS 15にアップデートした時にSafariブラウザでDRMコンテンツが再生できなくなった件については、こちらの記事でも取り扱っております。 ↩︎
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